亀と煮干しと僕と猛獣

私の死ぬかと思った話は(唐突)、幼稚園の頃、いつものように亀をかさねて遊んでいると、クミコ先生の園内放送が。
「狸が逃げました」
ふと隣の狸小屋を見ると、自由を手に入れ興奮気味の、狸。
どうやら毎日、人間にバレないように少しずつ掘った穴をくぐって出て来た様です。
「速やかに教室に入って下さい」
悲鳴と供に教室になだれ込む子供達。
元々おっとりした少年だった僕は恐怖もあり、ヨロヨロと教室まで走っていきました。
ナカジマ君という、これまたおっとりした性格の友人も、覚束ない足取りで同じ教室に向かっていました。
やっとの思いでついたユリ組の教室のガラス戸を見て、私達は驚愕しました。
キム君という、喧嘩も強いガキ大将が思いっきりドアを内側から閉めているではありませんか。
勿論そんな亀と遊んでいるような少年がガキ大将に腕力で勝てる訳がありません。
「ナカジマ君どうしよう!…アレ!? ナカジマ君!?
振り返るとナカジマ君はいません。その時は気付きませんでしたが、ナカジマ君は普段のオットリとした性格からは想像も出来ないスピードで僕の頭上の下駄箱の上に登っていたのです。
「ナカジマ君!!ドコにおると!キム君開けて!ナカジマ君がおらんっとて!開けて!! お願い!ねぇっ!! ね…」
そしてその時僕が振り返り見たものは、舌を出し、私の元へ突進してくる狸でした。
記憶はそこで途切れます。

次に目覚めた時には、僕は町立病院の手術台の上でした。
おしまい。

        • -