子供の頃に、俺は親からテレビを見る権利を奪われ、代わりにラジオを与えられた。皆が見てる人気のテレビ番組やアニメを見れなかったけれど、いつの間にか俺はどっぷりラジオにハマってた。イジメられてたから、関係なかったのかもな。茶の間、トイレ、台所、風呂、階段、もちろん勉強机、家中にラジオを置いて、学校から帰るとタイムスケジュールを片手にAMFMを行ったり来たり、ぐりぐりチャンネルをひねってた。音楽を良く聴くようになった。真っ暗な部屋で、遠くの信号が赤く点滅しだす時間が幸せだった。
その内に俺の親は、ラジオも疎ましくなりだして、何度か注意した後に結局ラジオも取り上げた。それでもこっそり、隠し持ってた小さいラジオで夜中にヘッドフォンをつないで聴いてた。ギリギリ階段を父親が登ってくる足音が聞こえる音量で音楽を聴いてた。今でもヘッドフォン越しに足音が聞こえると、とっさに外してしまう。トラウマってやつか。
ある日、いつもの様に足音が聞こえて素早くラジオを隠した。振り返ると弟だった。「なんだ」と尋ねた俺の質問には答えず、「ラジオ聴いてる事言いつけてやる!!」とか叫びながら俺の隠したラジオを掴んで駆け出した。「ちょっと待て!」弟の手からラジオを引き剥がそうとするけど、なかなか離さない。「お母さん!!お兄ちゃんが!!」「おい待て!」弟を壁に押し付ける。「おい聞け!よく聞け、いいか、お前がチクるとどうなる?考えろ、お父さんがキレるだろ?そんでお母さんとケンカして、俺も殴られて、家中暗くなるだろ?お母さんがまたふさぎ込むかもしれない。お前の一言でそうなる。一言でだ。今まで何度そうなった?いいか、学べ、ウマくやるんだよ」そう言うと、弟の手から力が抜けていった。
小さなラジオが俺の手の中でひび割れてた。

眠れないと、最近嫌な事ばかり思い出す。

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