東京サテライツ 第五話

わざと足を鳴らして歩く。
古めいた板張りの廊下がギシギシ悲鳴を上げる。
線香のジジ臭ぇ匂いの漂ってくるフスマに標準を定める。
「ぶっコロす」
そう小さく呟いて、猪木の逆水平チョップみたいに、元気に、馬鹿になるみたいに、
アタシはそのフスマをぶち開けた。
「ッざけんじゃねーぞゴルァ!!!!」
白い煙がグルンと渦巻き、そこにいたヤツらがコッチを見る。
「…君は…なんだ?」
インテリ風のヤサ男が話し掛ける。
「ウルセぇボゲッ!用は無ェんだよテメーなんかによぉ、アタシはコイツをブん殴りに来たんだよ!」
ヤサ男を睨み付けたまま、遺影を指差す。
「殴るだと!?」
「死んだってカンケー無ぇ、コイツに一発入れねーと寝付きが悪ぃんだよッ!」
そう言い放ち、キッと遺影に向き直る。
コイツ、ニヤニヤ笑いやがって…まじムカつ…く…って、アレ?アイツは?

「おい、死体が無ぇじゃねーか…?」
ヤサ男は一つ溜め息をついて、うつ向いたまま答えた。
「…彼女の遺体は、無いよ。彼女、飛び降りだったから…」
「…マジかよ」
「もういいだろ、帰ってくれないか」
「……」
「ほらっ、いい加減にしろ」
「80万はどーなるんだ」
「え?」
「リョウコに貸した80万はどうなるんだって聞いてんだよッ!?」
「さっきから何を言ってるんだ!彼女は僕が金銭的に何不自由なく援助していた!大体、彼女の名はキョウコだ!」
「は?」
「え?」

ほぼ同時に、驚くアタシの足元から驚く声がした。
「ショウコ…ですよ?」
「いやリョウコだろ」
「ちょっと待て、キョウコだと…」
「モマイラどこまで馬鹿にすんだよ!チョコタンはチョウコだッ!」

急に窓から怒鳴りこんできた太った男を、取り敢えずアタシラは部屋に入れた。

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